
株式会社クラウディアコスチュームサービスが展開するフォトスタジオブランド「リトル・マーサ」では、常設型のフォトスタジオ「リトル・マーサ 横浜店」「リトル・マーサ 名古屋店」をオープン。多彩な世界観に入り込めるスタジオが特徴で、衣装や照明、セットと連動した演出が国内外から人気を集めています。
この特徴的なフォトスタジオづくりを支えたのが、日本テレビアート(以下、日テレアート)によるスペースデザインとライティングデザインでした。番組やドラマ、映画の美術制作で培った知見を生かし、ブライダル業界にはなかった視点から没入感ある空間づくりを実現しました。
今回は、プロジェクトを担当いただいた株式会社クラウディアコスチュームサービスで執行役員・ブランドマーケティング事業部部長を務める義澤さま、ブランドマーケティング事業部 リトル・マーサ マネージャー兼チーフフォトグラファーの仙田さま、そして日テレアートから本プロジェクトの統括を担当した稲本、セットの美術デザインを担当した松本、照明を担当した名取とともに、フォトスタジオ完成までの道のりとこだわりのポイント、そして得られた成果を振り返ります。
―― 今回の取り組みでは、フォトスタジオ「リトル・マーサ 横浜店」「リトル・マーサ 名古屋店」のスペースデザインとライティングデザインをお任せいただきました。まずはフォトスタジオ「リトル・マーサ」について教えてください。
仙田:「リトル・マーサ」のフォトスタジオ事業は、キッズフォトや七五三などの小規模なスタジオからスタートし、ウェディングフォトスタジオの1号店として代官山店を開設しました。その後に開設された横浜店、名古屋店は、弊社のオリジナルドレスを着用したウェディングフォトに加えて、ディズニー作品の世界観にインスパイアされた「ディズニー ウェディングドレスコレクション」のドレスやタキシードをご着用いただける「ディズニープラン」をご提供していることが特徴です。
このフォトプランでは、着用される衣装に合わせてヘアメイクや撮影小物、そしてスタジオセットが含まれています。このプランを目的に日本全国から、そして海外からも多くのお客さまに足を運んでいただいています。特に海外からのお客さまは、InstagramといったSNSで当スタジオを見つけてくださる方が多く、グローバルに関心を寄せていただいていると実感しています。

―― 「リトル・マーサ」で大事にされている考えをお聞かせください。
義澤:私たちのフォトスタジオは撮影の技術や衣装だけでなく、「空間づくり」そのものをとても大切にしています。毎日の清掃やスタッフの振る舞いに至るまで、すべてが「リトル・マーサ」というブランドを形づくる大切な要素です。
昨今は結婚式ではなく、しっかりとした形に残るフォトウェディングに重きを置くお客さまが増えてきました。実際にフォトウェディングの撮影にご両親が同席し、そこで親族紹介を行うケースもございます。だからこそ、お客さまに心地よく過ごしていただくだけでなく、撮影の日がお客さまにとってかけがえのない時間になるようお手伝いさせていただくことが、私たちの使命だと考えています。
―― 「リトル・マーサ 横浜店」を立ち上げるにあたって、どのようなスタジオを理想としていましたか。
仙田:単にドレスやタキシードを着て撮影するのではなく、その衣装をご着用されたお客さまご自身が最も映える空間まで体験していただくことを重視しました。たとえば、「ディズニープラン」で「白雪姫」のドレスをお選びいただいた場合、リンゴの木があしらわれた森をイメージした空間で撮影することで、物語の世界をより深く感じていただけることを目指していました。ドレスやタキシードから想起される物語性や世界観をもとにセットと照明が構築され、被写体であるお客さまの魅力を最大限に引き立てるための舞台装置としてのスタジオが求められたのです。

―― 理想のスタジオを立ち上げるにあたって、どのような課題があったのでしょうか。
仙田:以前はアトリエタイプの店舗やロケーション撮影、百貨店でのポップアップ形式での撮影のみで、本格的な路面店のフォトスタジオは私たちにとって初めての試みです。撮影スタジオの設計だけでなく、セットに対する空調の影響やダクトの存在、セットの湿気対策など、スタジオの現場に足を運んで初めて気がつく課題が多く、セットや照明のプロの存在が必要不可欠だと感じました。照明が被写体であるお客さまと衣装、背景のセットに与える印象がどのように変化するのか、ベストな照明の色や色温度、角度に関するプロの知見が特に必要だったのです。
また、限られたスペースでセットの奥行きや、さまざまな世界観を表現できることが求められました。ウェディングフォトを提供する「オリジナルプラン」と、幅広い世界観が求められる「ディズニープラン」をこのスタジオで撮影するためには、照明やセットを工夫し多種多様な空間をつくり上げることが求められました。
さらにスタジオのオープン日が事前に決められており、遅れのないスケジュールで施工を進行しなければならなかったことも背景にあります。
――「リトル・マーサ 横浜店」のスペースデザインとライティングデザインをお任せいただいた決め手をお聞かせください。
義澤:映画やドラマの美術デザイナーとして活躍されている方からのご紹介があり、新たなスタジオづくりをご相談させていただきました。弊社独自のフォトスタジオを作るにあたり、ドレスやタキシードの世界観を大切にしたいとの考えから、セットや照明のデザインの責任者は弊社のドレスデザイナーが務めました。実際のご相談では、ドレスやタキシードのデザインとその世界観を大切にするために、スタジオ全体の動線を広く設計いただいたり、ドレスをふわっと広げるための空間を確保いただいたりと、さまざまな要望をお伝えしています。また、撮影クオリティを担保するために、照明の操作を簡易化していただくこともお願いしています。

―― 今回のプロジェクトで弊社に依頼を決めた最大の理由は何だったのでしょうか。
仙田:やはり「ワクワクしたから」ですね。フォトプランをお申し込みいただくお客さまにとって、スタジオの空間そのものも大事な商品の一部です。だからこそ、お客さまにワクワクしていただくことはもちろんのこと、お客さまにフォトプランをご提案する私たち現場のスタッフや経営層までもがワクワクするようなスタジオセットが求められました。日テレアートさんで長年、番組やドラマ、映画のセットや照明を手掛けられたデザイナーさんであれば、きっとワクワクするような空間を形にしてくれると強く感じ、正式にご依頼させていただきました。
稲本:フォトスタジオのセットと照明という、これまでとは異なる毛色のプロジェクトだったため、一つひとつの要件を確認しながら進めていきました。ドラマや映画のセットは撮影が終われば解体されたり、番組のセットは解体されて美術倉庫などで保管されますが、フォトスタジオは常設であり、日々の撮影に使用されます。そのため、セットのデザイン担当の松本には、構造面で工夫し、強度や耐久性を重視して設計するよう伝えました。

松本:フォトスタジオの設計では「森」や「時計台」など合計で13の異なるエリアを設け、それぞれのシーンで独自の世界観を演出しています。セットの中で特に重要な存在だったのが、「木」です。
高さ5メートルあるスタジオの空間を最大限活用しつつ、消防法の関係で排気の通り道を確保しながら美観を損なわないように工夫しました。また、リトル・マーサ 横浜店のスタッフさんへのヒアリングを参考に、「オリジナルプラン」や「ディズニープラン」のどんな撮影にもなじむ抽象的な木を目指しました。
義澤:「木」の存在感がフォトスタジオの空間全体の雰囲気を左右するといっても過言ではありません。日テレアートさんに「木」を制作いただくにあたっては、普段から本物の「木」を扱っている造園業者さんと造作屋さんに連携いただき、枝ぶりや葉の並び方など非常に自然な仕上がりになったと思います。
名取:照明設備の取り付け、システムの実装が始まったのはセットの施工がほぼ完了したタイミングでした。リトル・マーサ 横浜店のスタッフさんからは「木漏れ日」がテーマとして与えられ、日中と夜のそれぞれの表情をライティングでどう演出するかがポイントでした。太陽光と月光の色味を使い分けるだけでなく、スタジオを感じさせないように空間に奥行きを与えるよう設計しています。
また、番組で使われるような強い照明ではなく、飾りライトやあんどんといった写真に映り込んでも違和感がない照明器具、つまり電飾をメインに据えたことも特徴です。自然光を再現した照明と電飾によって、多種多様な撮影シーンや没入感を実現しています。

仙田:照明のレイアウトだけでなく、作品ごとに明るさや色温度、配置などの照明条件をプリセットいただいたことで、照明を調整することなく撮影に専念できる環境を構築いただきました。マニュアルを理解していれば、フォトグラファー以外のスタイリストでも操作できるほど簡単で、現場からも高評価の声が上がっています。
―― 当初のスケジュール通り、2023年6月に「リトル・マーサ 横浜店」がオープンしました。セットに対して、お客さまからはどのような反応がありましたか。
仙田:お客さまとの事前の打ち合わせでは、オンラインと対面の両方に対応しているのですが、実際にスタジオにお越しいただいたお客さまには、なるべくスタジオを見ていただけるようご案内しています。そこでの反応は、私たちが完成したスタジオを初めて見た時の感動そのものです。
「わぁ、すごい!」とお客さまが声を上げて喜んでくださる姿を見るたびに、スタジオが持つ空間の力を感じています。お客さまの中には「〇〇のドレスを希望していたけれど、実際のセットを見ていたら別のドレスの撮影もお願いしたい」と予定を変更される方もいらっしゃるほどです。また、もともとは野外で撮影を行うロケーション撮影を希望されていたお客さまが、スタジオセットを実際に見ていただいたことで「このセットで撮影できるのであれば」とスタジオでの撮影に変更されるケースも珍しくありません。

―― 照明に対する反応はいかがでしょうか。
仙田:撮影シーンを変更する際には、お客さまにドレスやタキシードを着替えていただく間に照明を切り替えるのですが、フォトスタジオへ戻っていただく度に「さっきと同じ場所ですか?」と驚かれることがよくあります。たとえば森のエリアでは、昼の照明でリンゴを飾ったり、夜の照明でランタンを灯したりと、まったく異なる空間を演出しています。
―― フォトグラファーさんや社内からの評価はいかがですか。
義澤:普段は他拠点で撮影しているフォトグラファーがこのスタジオに来ると、皆が口を揃えて「このセットはすごいね」と言ってくれます。「この完成度のスタジオをいかに生かして撮影するか」と、いつにもまして真剣な表情で撮影に取り組んでいます。そして社内の上層部からも、納期・品質・コストすべての点で非常に高い満足度が得られたと評価がありました。
―― 「リトル・マーサ 横浜店」に引き続き、2025年2月にオープンされた「リトル・マーサ 名古屋店」のスペースデザインとライティングデザインもお任せいただきました。
義澤:国際情勢の変化による建築資材や人件費の価格向上の影響を受けながらも、丁寧にお取り組みいただき無事オープンにこぎつけることができました。「リトル・マーサ 横浜店」の経験を生かし、「リトル・マーサ 名古屋店」では空調の位置やフォトグラファーの動線設計、セットの見え方など細部にまでこだわっていただきました。
仙田:「リトル・マーサ 名古屋店」では、ドレスブランド「KIYOKO HATA(キヨコハタ)」という花嫁さんに人気のドレスブランドのデザイナーが監修したスペシャルなエリアを、名古屋店限定で開設しました。そこでブランドアイコンであるとても大きな薔薇を制作いただいたのですが、その薔薇の開き具合や色のグラデーションが本当に素晴らしく……。日テレアートさんに心から感謝しています。

―― 今後の展望をお聞かせください。
義澤:おかげで「お客さまにとって心地よいスタジオ空間とは何か」を改めて考えるきっかけになり、この経験と知見は弊社にとっても価値あるものです。今後も「リトル・マーサ」というブランドを成長させていくため、限られた空間で世界観が感じられるスタジオづくりを目指していきたいと思っています。
―― 弊社のスペースデザインとライティングデザインは、どのような企業におすすめできるでしょうか。
義澤:ブライダル業界とは異なるデザイン視点を持つ日テレアートさんとお取り組みできたことで、私たちの中にあった「ウェディングフォトスタジオ」の固定観念が良い意味でリセットされました。内装や演出に関しても、お客さま目線の心地よさと、非日常的な世界観の両立を実現してくださって、本当にお願いしてよかったと感じています。今回のようなデザインや演出の取り組みはフォトスタジオはもちろんのこと、イベントや展覧会など多くの人が集まる空間でも生かされるのではないのでしょうか。