社員インタビュー
照明とは心情の表現であり、コンテンツの質を左右するもの┃ ライティング・ディレクター(LD)・木村弥史
照明とは心情の表現であり、コンテンツの質を左右するもの┃ ライティング・ディレクター(LD)・木村弥史

テレビ番組の制作には大きく分けて3つのセクションが関わっています。番組の企画や演出、出演者などを決める「演出」。テレビ番組のセット作りなどを担う「美術」。そして、カメラマンや音声、照明スタッフなど撮影に関する業務を支える「技術」です。日テレアートは美術セクションに加え、本来は技術セクションに属する照明部があり、業界内では異色の存在といえます。

 照明部でライティング・ディレクターとして活躍している木村弥史は、まさにその技術畑のスタッフです。あえてテレビ業界の常識とは異なる体制を敷いている理由やそのメリットとは?そしてライティング・ディレクターの職務について、詳しく教えてもらいました。

先輩社員のもと、未経験から一人前を目指す

  • まず、ライティング・ディレクターの業務について教えてください。

木村:ドラマや歌、バラエティ番組のディレクターの演出意図を踏まえつつ、照明プランを考え、それに適した収録・撮影ができるように、照明機材の仕込みや光をコントロールするのが主な業務です。歌やバラエティ番組の場合は、スタジオに合わせて照明用の図面を描いて、当日仕込んでもらったものをチェックして調整していきます。連続ドラマの場合は1クール付きっきりになるので、大体ひとつの番組を3ヶ月以上かけて、だいたい週に1本のペースで撮影していく感じになります。

 アート照明部の活躍の場所はテレビスタジオに限らず、ドラマなどのロケ業務や、『THE MUSIC  DAY』の幕張メッセや『24時間テレビ』の武道館や国技館、『日本アカデミー賞』のグランドプリンスホテル新高輪など、スタジオの枠を超えて、大型ホールや各種イベント関係も多く手掛けています。

  • ライティング・ディレクターというと専門学校や芸大で学んできた経験者が就くイメージがありますが、どのような経歴で入社したのでしょうか?

木村:僕自身も未経験で入社しましたし、社内のスタッフの多くが文系・理系を問わず一般大学を卒業した未経験者です。その状態から先輩のライティング・ディレクターのアシスタントとして経験を積み、2〜3年後にバラエティ番組の照明を担当できるようになれば一人前です。

 僕も最初はそうでしたが、照明といえば華やかな歌番組のイメージが強いと思います。そのため、今も新卒で入ってくる照明メンバーの9割は歌番組志望で、残りの1割がドラマ志望です。歌とドラマだと使う機材や考え方も違うので、それなりの時間と経験を積まないと、ドラマや歌番組のライティング・ディレクターにはなれません。入社してから何年かは歌もドラマも色々と経験して、自分の好きな道に進むことが多いです。僕の場合は気がついたらドラマの現場ばかりになっていました。

  • ちなみにテレビ業界の技術部といえば職人肌で体育会系の方が多い印象がありますが……?

木村:なぜか昔から照明部は酒豪が多いイメージみたいです。実際に昔はドラマの現場に行くとずっと缶詰になって撮影をして、撮影が早く終わった日も「よし飲みに行くぞ、反省会だ!」って結局夜中までずっと飲んでスタジオに泊まって、また翌朝すぐに仕事に行ってました(笑)。僕はそんなにお酒が強いわけではないので、今思えば楽しかった記憶もたくさんあるけど、当時は色々と大変でした。もちろん、最近はそんなことないです! 働き方改革もあって今はちゃんと帰りますし、若いメンバーにも無理な残業はさせないようにしています。昔から比べると非常にホワイトでクリーンな環境になりました。

準備だけでなく、現場でのひらめきも重要

照明は現場だけで仕事をする役割と思われるかもしれませんが、決してそうではありません。実はその前段階の準備こそが重要であり、さらに”現場でのひらめき”も求められるといいます。

  • 撮影がないときはどのような業務をしているのでしょうか?

木村:基本的には照明のプラン設計やロケハンなど準備に時間を費やします。ドラマの場合はクランクインの一か月前くらいから動き出すのですが、初め(1話)が重要なので、映像のトーン(雰囲気)をどんな感じにするか?などを細かく打ち合わせしていきます。実際に撮影が始まると、バタバタしてゆっくり考えられる時間も減っていくので、事前準備を入念にやっておくことが肝心です。

 ただ、最初は数話分のストックがあるものの、次第に台本ができてから撮影までの期間が短くなって、準備の時間が限られてきます。ときにはロケハンできずに現地で一発勝負の場合や、事前に照明プランを考えていてもお芝居やステージング(役者の立ち位置)が変われば、照明プランが変わることもあるので、現場でのひらめきも重要です。現場での瞬間的な対応力を磨くにはそれなりのトレーニングが必要です。助手時代に僕が実際にやっていたのは、まずちゃんと先輩のライティング・ディレクターと同じように自分なりに台本を読んで、当日の撮影シーンについて理解を深めてから現場に臨むこと。その一方で、あえて当日の撮影シーンを予習せずに手ぶらで行って、現場で瞬間的に考えることの両方を練習していました。

 準備は重要ですが、準備しないとクオリティが担保できないのではプロとしてもう一歩。できるときは完璧に仕上げたうえで、できないならその制約のなかで臨機応変に対応し、ベストを尽くして、きちんと結果を出すことが、プロだと思います。

  • 日テレアートのようにテレビ美術の会社に照明の部署があるのは珍しいケースのように思いますが、なぜこういった体制になったのでしょう?

木村:照明はカメラマンや音声とあわせて技術部に属することが多いので、たしかに珍しいとは思います。ただし、番組の画作りを担っているという点では、照明も美術も同じです。よく言われるのが、セットの中に役者や出演者が立ち、カメラが切り取った映像に、照明が色と光を与えるということです。仕事においても照明とセットデザイナーは綿密に打ち合わせをする必要があります。特にドラマや歌番組の場合は「セット打ち合わせ」というのがあって、そこで番組ディレクターと一緒にセットの構成や照明について話すのですが、通常は美術と技術は違う会社のメンバーが現場にいることも多いです。その点、日テレアートは同じ社内に美術も照明もいるので、細かな段取りを調整しやすいのはメリットだと思います。「ここに窓を作って欲しい」や「ここはスペースが無いからもうちょっとなんとかできない?」など、コミュニケーションが円滑にできますからね。

 先日は「リトル・マーサ」というフォトスタジオの内装を弊社の美術部がおこない、照明の設計をライティング・ディレクターが担当しました。これも美術と照明が同じ社内にあるからこそ、より良い仕上がりにできた案件だと感じています。最初はホームページに掲載する宣材写真を撮影するために、セットのライティングを行いましたが、その雰囲気をクライアントにとても気に入っていただけました。そこで実際にスタジオで利用する照明機材も、日テレアートが納入し、ライティングの設置方法や当て方についてレクチャーさせていただくことになりました。

▲日テレアートが照明設計を行ったフォトスタジオ「リトル・マーサ 横浜店」

木村:窓の裏側にLEDライトを仕込んで自然光が差し込んでいるように見せたり、木漏れ日を作ったり、同じセットで日中、夕方、夜のシーンを作る。ドラマの撮影で培ったライティングは、当日立ち会ったプロのスチールカメラマンの方にもとても喜んでもらえました。

 ムービーのカメラマンの場合は音声が入ってはいけないのでしゃべらずに撮りますが、このときは女性のスチールカメラマンさんが「可愛い〜!」ってずっとモデルさんを褒めたり、木漏れ日の照明を作ったときも「ナイス木漏れ日〜!」と現場を盛り上げていて新鮮でした(笑)。別の業種のクリエイターとやり取りすることで学べることもありますし、自分が持っている照明のスキルは、テレビ以外の現場でも活かせるなと感じました。

監督をも驚かせる“心情を表現する手段”としての照明

ドラマや映画、CM撮影の現場では監督の名前を取り「〇〇組」と呼ばれる固定の技術スタッフでチームを組むことがよくあります。そのため、ドラマのライティング・ディレクター依頼も9割が指名制。そのなかで昨年の木村は連続ドラマを3本担当するなど、多忙を極めています。演出から信頼されるライティング・ディレクターの要素とは、なんなのでしょうか。

  • 自身のライティングはどんなところが特徴だと思いますか?

木村:周りからは「月光やキラキラした雰囲気を作るのがうまい」と言われます。ドラマでいうと主人公がひとり落ち込んでいるシーンで、外から月光がちょっと入っている雰囲気や、女性の主人公が生き生きと活躍する感じとか。視聴者の心情に訴えかけるのは出演者の方の演技ですが、お芝居以外で一番ダイレクトに映像のなかで、情景や心情を描写できるのは照明の強みであり、醍醐味だと思っています。

 そのためひとつひとつのシーンについて監督と打ち合わせることも多いです。ただ、ある程度一緒にやっている方だと「いい感じにしといて」と任せてもらえることも多いので、事前に照明プランを考えておいて、現場で「こういう感じはどうでしょう?」とお見せすることもあります。

  • 任されるのと明確なビジョンを言ってくれる人のどちらがお仕事しやすいですか?

木村:どちらも楽しいです。もちろん明確なリクエストがあるほうが方向性を決めやすいです。ただ、自分で何パターンか考えて提案した場合も、監督の要望を汲んで照明を作った場合も、だいたい最終的に同じような結果になることが多いです。例えるなら、花を見て綺麗だと思うように、美しい照明は誰が見ても、先天的・原始的な感覚できれいだと分かるということかもしれません。印象的なシーンには必ず良い照明があるのです。

 ただ、僕はどちらかといえば“驚かせたい派”なので、お任せしてもらえる方がやりがいがあるなと感じます。あらかじめ事前に細かく照明の計画を監督と相談する人もいますが、僕は何か要望を言われない限りは、何も言わずに現場で光を作って見せます。若干ひねくれているのかもしれないですが、うまくハマると「木村は特に指示しなくても、きちんと照明演出をしてくれる」と信頼を得られて、指名をいただけるようになることもあります。

照明の良し悪しでコンテンツの質は劇的に変わる

  • 照明は裏方にあたる技術職ということもあって、一般的にはその重要性が伝わりづらい側面もありますよね。

木村:テレビ業界の関係者にとっては照明の大事さは言わずもがなです。ただ、ネット配信など、自社や独自で配信スタジオを持っている企業などの場合は、ネット通販で買った照明を使い、照明のプロ以外の人が照明をおこなっている場合もあります。その場合は残念ながら照明の当たり方が悪かったり、色が悪かったりして、顔や商品がきれいに見えない場合が多いので、改善の余地が大きいなと感じています。特に通販番組などの場合は、人や商品を綺麗に見せる必要がある。そうなると照明のクオリティが低いと、コンテンツ全体の質まで低くみえてしまいがちです。逆にいえば、照明がちゃんとしていれば、コンテンツの質は劇的に変わるんです。

  • 今後、手がけてみたいお仕事などはありますか?

木村:ありがたいことに、去年は担当した3本以外にも連ドラで指名をいただいたのですが、撮影日程の関係もあってすべてのお仕事を引き受けることはできませんでした。そんな状態ではありますが、先ほど話した「リトル・マーサ」のように、新しい案件には新しい刺激がありますし勉強になることも多いので、できる限り引き受けたいと思っています。

 特に本格的な映画の現場やミュージックビデオ、CMの撮影などはぜひやりたいです! 以前、浅野温子さんが全国各地の有名な神社で古事記などを朗読する『日本神話への誘い』というイベントで、神社全体をライトアップする案件もあったのですが、あれもすごく面白かった思い出があります。弊社照明部には、歌やドラマのスペシャリストはもちろん、ジャンル問わず活躍できる照明のプロが多数在籍しています。映像が入らないイベントなども、照明が必要であれば、お声がけいただけたら積極的に手がけていきたいです!


配信番組のライティングやイベントにおける照明プランなど、テレビ番組制作で培ってきた照明ノウハウを活かしてコンテンツのクオリティアップをご提案します。お気軽にご相談ください。

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